あなたはどう生き、どう死にたいですか?
2018年だけで326展のアートを巡ったライター・講師、ホラノコウスケ(@kosuke_art)です。
大阪の国立国際美術館にて、『クリスチャン・ボルタンスキー − Lifetime』展が開催されました(〜2019/5/6)。
そしてあの衝撃が、東京でも体験できます(2019/6/12〜9/2)。
その後は、長崎へも!(2019/10/18〜2020/1/5)
数々のインパクトある作品から「生と死」を考えさせられる、驚きの内容の一部を解説します。
目次
『クリスチャン・ボルタンスキー − Lifetime』展
クリスチャン・ボルタンスキー(1944年-)は、現代のフランスを代表するアーティストのひとりです。(中略)
国立国際美術館、国立新美術館、そして長崎県美術館の3館が共同で企画する本展は、ボルタンスキーの初期作品から最新作までを紹介する、国内初めての大規模な回顧展です。(中略)
ボルタンスキー自身が「展覧会をひとつの作品として見せる」と語るように、作家自身が会場に合わせたインスタレーションを手掛けるという構想のもとに企画されました。
ここでは大阪で鑑賞した私が、
- 音
- 顔
- 光
- 服
という視点で作品を分け、本展で感じる「生と死」について紹介します。
1.「音」で感じる、生と死
会場に入ると、まず驚くでしょう。
異様な「音」が、いくつか聞こえてくるんです。
特に、入ってすぐにあるあの映像と音は…。
実際に現地で体験してください。
そして、会場全体に響き渡る音は、ドクッ、ドクッ、ドクッ。
心臓の音です。
会場のどこにいても聞こえるこの心臓音。
自分が「生きている」ことを実感します。
しかし同時に、それが「いつか止まる」ことも意識させられるのです。
展覧会をひとつの作品として見せる
とボルタンスキーが語ったように、展示会のどの場所でも聞こえるこの心臓音が、全ての作品をつなぎ、まとめているように感じます。
2.「顔」で感じる、生と死
1960年代後半より短編フィルムを発表し始めたボルタンスキーは、1970年代に入り、写真を積極的に用いるようになりました。人が歩んできた歴史や文化人類学への関心を土台とし、写真やドキュメントとビスケット缶などの日用品を組み合わせることで、自己あるいは他者の記憶に関連する作品を多数制作し、注目を集めます。
「顔」の写真を使った作品が多数あるのも、ボルタンスキー作品の特徴です。
入り口すぐの場所には、こんな作品が。
紐でできたカーテンに、ボルタンスキー自身が投影されています。
一方こちらにある100枚の顔写真。
新聞から切り取って拡大されたものなのです。
その顔からしか、背後にある物語を想像する材料はありません。
いったい、この人は、あの人はなぜ、新聞に載ったのでしょうか…?
天井に吊るされた50枚のヴェール。
顔写真がプリントされたそれはゆらゆらと揺れ、人の魂が浮遊しているようです。
モノクロの大きな顔写真に、ボルタンスキーと同じフランス人アーティストのJRを思い出しますが、あまりに異なる雰囲気です。
ところで、あの顔のカーテンをくぐってあらためて振り返ると、その隣に赤い数字がありました。
これ、実は…。
3.「光」で感じる、生と死
この数字、どんどん増えていきます。
何だと思いますか?
実はこれ、ボルタンスキー自身が生きてきた時間を秒単位でカウントしているのです。
そして彼が死んだとき、この数字は静かに止まる。
あとどれだけ数字が進むのか。
この作品とボルタンスキーの終わりを、誰も予想できません。
1980年代に入り、明かりを用いたインスタレーションを手掛けるようになったボルタンスキーは、子どもの肖像写真と電球を祭壇のように組み合わせて展示した「モニュメント」シリーズ(1985年-)で宗教的なテーマに取り組みます。
このように本展では「光」も効果的に使われています。
床に置かれたたくさんの電球。
それが、毎日2つずつ消えていきます。
私が見たこの日は明るかったこの光景も、本展が終わる5月には暗くなっているのでしょう。
人の命が消えていくことをイメージしてしまいます。
その後ろにあったのは、黒いビル群?
墓石のようにも見えます。
その間をぬって歩いていくと…。
そこには「来世」がありました。
4.「服」で感じる、生と死
パリのグラン・パレの広大なスペースを生かし、大量の衣服を集積させた《ペルソンヌ》(2010年)など、その後もさまざまな手法によって、歴史や記憶、そして死や不在をテーマとした作品を発表します。
「服」、それも古着には、「人」を感じざるを得ません。
着ていた人の記憶・ストーリー・感情、様々な見えないものが、そこにあるはずです。
広いスペースの真ん中に、真っ黒な山。
近づいてよく見ると、礼服の山なのです。
顔を使った作品が「個人」を意識させるのに対し、これは「集合体」、つまり一人ひとりに想像は及びませんでした。
私はそこに、ある種の恐ろしさを感じます。
個人として認識されない自分はどんなときなのか、その自分はある意味「死んでいる」のではないかと。
また別のスペースには、矢印がありました。
奥へ奥へと誘うかのように。
いや、違いました。
これも服だったのです。
しかも、行き止まりでした。
電球で囲まれたコート(あるいは人)には特別感、神聖なものを感じます。
まとめ
他にもたくさんの作品がありますが、あなたの楽しみのためにここでは紹介しません。
死という重たいテーマではありますが、様々なしかけがあり、ただ気持ちがどんよりとなるわけではない展示です。
「アイデア」を感じる点でも私好み。
グッズも、ポストカードをはじめとして図録、Tシャツなど色々売っていますよ。
作品の「解説」は入場するともらえるのですが、図録を購入したほうが情報量が多くて、より深く濃く、内容を知る・思い出すことができます。
大阪にはない作品が東京・長崎にはあるとのことなので、東京でもまた行くかもしれない、ホラノコウスケ(@kosuke_art)でした。
回顧展スケジュール・場所・時間など
国立新美術館(東京)
住所:東京都港区六本木7-22-2
会期:2019年6月12日(水)~9月2日(月)
開演時間:10時─18時 ※金曜・土曜は6月は20:00まで、7・8月は21:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日
入場料:一般1600円、大学生1200円、高校生800円
長崎県美術館(長崎)
国立国際美術館(大阪)
場所:国立国際美術館
住所:大阪府大阪市北区中之島4-2-55
会期:2019年2月9日(土)―5月6日(月・休)
開演時間:10時─17時 ※金曜・土曜は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし4月29日(月祝)、5月6日(月休)は開館)
入場料:一般900円、大学生500円
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