あなたは、思いやりある人間ですか?
1年で526展のアートを巡ったライター・講師、ホラノコウスケ(@kosuke_art)です。
新型コロナの影響でアート巡りができない今、アートな映画ばかり見ています。
今日紹介するのは、映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』。
これは映画じゃない。体験型アートです。
分かりやすい「物語」を求める人は、観ないほうが良いでしょう。
ん?私ですか?この映画、大好きです!
これは、風刺を利かせて人の目を見開かせる、バンクシーのような映画だという印象です。
この映画自体がアート。
つまり「正解」はない。人それぞれの見方があるのです。
普段から他人に決められた「正解」ばかりを求めてしまう人が観れば、「意味がわからない映画」となるかもしれません。
しかしこの映画はきっと、あなたも参加するアートなのです。
酔っ払いの女性を助ける?
映画の話の前に、ちょっとこの話を考えてください。
私が32歳くらいの頃。
名古屋駅で終電の一本前に乗り込むと、目の前にちょっと色気ある女性が酔いつぶれていた。
席は空いておらず、立っている。
電車が動く前から、止まっていられずフラフラだ。
私も立っているから、席を譲ることができない。
座っている人たちは見て見ぬ振りだ。
私はイライラした。
寝たフリして座ってられるなんて、どんな神経だよと。
しかし、
この女性に席を譲ってあげてください
と言い出す勇気はない。
つまり、私も見て見ぬ振りなのだ。
すごく難しかった。葛藤があった。
私よりもっと近くにも、人がいるのだ。
その人が助けるべきでは?
少し離れた私がわざわざその女性のもとへ行き、
大丈夫?
そう声をかけるのは、勇気のいることだった。
周りの人から「カッコつけやがって」「ナンパか?」と思われたら恥ずかしい。
電車が動き出す。女性は今にも倒れそうだ。
本当に倒れかけたら、そのときは絶対に助けよう。
そう思って、見守っていた。
次の駅に着く直前、席が空いた。
酔っぱらい女性は、それに気づかない。
このままだと、他の客に席を取られてしまう。
ようやく、人見知りの私が、勇気を振り絞って、その女性に声をかけた。
そのまま席へ連れて行き、隣に私も座った。
座ると少しラクになったのか、女性は電話をかけた。
家族に迎えに来てもらうのだろうか?
違った。
…はぁ?指輪あげたじゃん。なんで?
男にもてあそばれているようだ。気の毒だなと思った。
にしても、電話の声がやたらデカく、車両に響き渡る。他の客の視線が痛い。
私は「助けた」ことを後悔した。
この女性が隣で大声で電話しているせいで、私はとても恥ずかしく、不快な思いをしている。
考えてみたら、この女性は単なる酔っぱらいだ。
病気で倒れそうだったわけじゃない。自業自得じゃないか。
おまけに、男いるのかよ!(ちょっとだけ、下心があったのかも?)
次の駅で、女性は最初見たのとは別人のように、カツカツと電車を降りていった。
さて。この話の中に、「思いやり」にまつわる部分がいくつもある。
- 寝たフリで席を譲らない人は、不親切?
- 「席を譲ってあげて」と思っている私は親切?
- 「席を譲ってあげて」と言えない私は、不親切?
- 「本当に倒れかけたら助けよう」と声をかけずただ見守る私は親切?
- 空いた席へ女性を連れて行った私は親切?下心があったかもしれないから不親切?
- 男にもてあそばれている女性を「可哀想」と思った私は親切?
他にもあるかもしれない。
あなたなら、どう思う?
あるいはあなたなら、どうする?
映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
さて映画の話をしましょう。
クリスティアンは、現代美術館のキュレーター。
洗練されたファッションに身を包み、バツイチだが2人の愛すべき娘を持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えます。
彼は次の展覧会で「ザ・スクエア」という作品を展示すると発表。
それは、地面に正方形を描いた作品です。
正方形の中では全ての人が平等の権利を持ち、公平に扱われるという「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アート。
現代社会に蔓延るエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる狙いがありました。
ところが。
特に猿男のシーンがたまらない。あぁ、イライラする!
ちなみに、この映画に出てくる《ザ・スクエア》は、監督が実際に美術館に展示した作品なのだとか。
他に、砂利の山の作品は、実際のアーティストの作品にインスパイアされたもの。
また猿男オレグのパフォーマンス・アートは、本来はOleg Kulikというアーティストが犬を演じるパフォーマンスなのだそう。
アートにふれる意味で、この映画を鑑賞するのも面白いでしょう。
理想と現実?本音と建前?
日本にある「本音と建前」という言葉を思い出します。
「日本にある」と言ったのは、これが日本人的だということで、海外ではそのまま”Honne and tatemae“と表現されることもあるから。
ニュアンスは違いますが、「理想と現実」というキーワードも浮かびました。
本当はこうしたほうが良いかもしれないけど、できない。
本当はすべきでないけど、してしまう。
そんなことが、私たちにはよく起こります。
たとえば、駅前で物乞いをする人がいたら、あなたは毎回全員にお金をあげるでしょうか?
募金ならどうでしょう?物乞いに対するのと、対応が違いますか?
映画の中でクリスティアンは、普段は物乞いを無視するのに、ある機嫌の良い日にはお金を渡すのです。
「思いやり」をテーマにした作品を展示する彼が、思いやりのない言動をすることもあります。
私たちの身の回りでも、この映画と似たようなことが起こります。
あなたはそのとき、どうするでしょうか?
映画『ザ・スクエア』を見て、私は上記の酔っぱらい女性の出来事を思い出したのでした。
今度同じことが起こったら、私にはそこに『ザ・スクエア』が見えるだろうか?
自分を欺くとき、人は自分を正当化し、他人のせいにし始めます。
私に大きな影響を与えたこの本↓『自分の小さな「箱」から脱出する方法』を思い出した、ホラノコウスケ(@kosuke_art)でした。
ところで。「箱」も四角(スクエア)ですね。
そして、英単語”square”には、「誠実な、正直な、公平な」という意味もあります。
この映画、このアート作品。
よくできてるなぁ…。
映画『ザ・スクエア』の視聴方法は?
↓アマゾンプライムで観ることができます。
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