本当の資本とは、人の持つ創造性である
1年で536展のアートを巡ったライター・講師、ホラノコウスケ(@kosuke_art)です。
冒頭の言葉は、ヨーゼフ・ボイスの名言。
私も人の創造性を刺激するワークショップを仕事にしているので、ものすごく共感します。
人は奴隷じゃない。
人はロボットじゃないんです。
それなのに、
考えることを放棄している人が、
自分の頭の使い方を知らない人が、
他人の創造性を抑圧する人が、
いかに多いことか。
愛知県の豊田市美術館にて、『ボイス+パレルモ』展が開催されました(〜2021/6/20)。
その後、大阪の国立国際美術館でも開催。
作品を「物」として見るだけでは分かりにくい内容のため、より楽しむための情報をここでお伝えします。
目次
『ボイス+パレルモ』展
ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)、第二次世界大戦以降の最も重要な芸術家のひとり。彼は「ほんとうの資本とは人の持つ創造性である」と語り、ひろく社会を彫刻ととらえ社会全体の変革を企てました。(中略)
ボイスは教育者として多くの芸術家を育成したことでも知られています。ブリンキー・パレルモ(1943-1977)もその教え子のひとりです。(中略)
ボイスはのちにパレルモを自身にもっとも近い表現者だったと認めることになります。(中略)二人の作家それぞれの特徴をうかがいながら、両者の交わりや重なりに彼らの実践の潜勢力を探る本展が、社会と芸術のかかわりについてあらためて問いかけ、芸術の営為とはなにかを見つめなおす機会となることを願います。
ヨーゼフ・ボイスとその作品たち
豊田市美術館では残念ながら、展示内容は一切写真に撮ることができませんでした。
正直、写真を撮っても意味のない(?)作品が多いですが。
美しさなどが目的の作品はほぼないのです。
ボイスについて、キャロライン・ティズダルは映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』の中でこう語っています。
これほど視野の広い人と関われるのは、本当に素晴らしかった
単なる芸術家を超えていた
社会を彫刻ととらえ、社会全体の変革を企てたボイス。
その作品は、様々な形で我々を挑発してくるようです。
冒頭の言葉、覚えていますか?
本当の資本とは、人の持つ創造性である
上の作品は、帽子の中に脂肪が塗られています。
脂肪はボイスが好んで用いた素材の1つ。
温めればドロドロと形を変化させ、冷やせば固まります。
「頭を柔らかくしろ」、ボイスにそう言われているよう。
十字が貼られていることも気になりますね。
あなたはどう感じますか?
素材といえば、フェルトもボイスがこだわって使った素材。
実は彼、第二次世界大戦で飛行中に追撃され、瀕死の重傷を負います。
そのとき現地人に「脂肪」を塗り込まれ、「フェルト」に体を包まれて冷やさないよう守られたことで、一命をとりとめたのです。
豊田市美術館には、上の作品の一部が展示されています。
1985年にロンドンの画廊が周囲の工事の騒音に悩まされていましたが、ボイスは展覧会を行うにあたりこのフェルトのロールを壁に、床から天井まで敷き詰めます。
するとその空間は無音の、むしろそこにいる人自身の息や心臓音が聞こえてくるような、静かすぎる空間となったのです。
あなたならその空間、どう感じますか?
居心地が良さそうですか?
私は学生時代を思い出しました。
図書館で受験勉強をしているとき、近くに雑談をしている人がいると「うるさいな」とイライラしました。
ところが、静かすぎると自分がペンをカチカチする音や腹のなる音が異常に気になり、かえって集中できなかったのです。
私は一人の時間がわりと好きですが、一方で外界とゆるくつながる感覚は、心地よいのかもしれません。
あくまで「ゆるく」ですけどね。
ボイスが遮音以外に何を意図してこの作品を作ったのか、私には分かりません。
あなたはどう感じますか?
ボイスはパフォーマンス作品も多く残しています。
上のタイトルは、《死んだウサギに絵を説明するには》。
美術館でぜひ、映像作品をじっくり鑑賞してください。
実際には、ボイスはもっともっと過激です。
誰もが創造的でありうる
創造の機会さえあればいい
教育の平等の問題だ
そう言うボイスは1967年、入学試験の廃止を提案。
1971年には、大学定員のために入学できなかった142人を自分のクラスに受け入れると主張、入学希望者と共にアカデミーの事務局を占拠したのです。
結果、1972年に解雇されますが、その後の訴訟で勝訴します。
世界各地で対話集会を開いたり、政治の世界にも乗り込むなど、社会全体を彫刻として、周りを巻き込みながら行動によって彫刻を形づくろうとします。
皆を怒らせるのはいいことだ。
少なくとも対話が始まる。
まず挑発すれば、そこで人は活気づく。映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』より
自分と違うことを言われたり、理解できない行動をされると腹を立てる人が多いものです。
それを恐れずに言動するボイスの姿勢、とても共感します。
「共感」は一般的に心地よいものですが一方で、共感しかない場に私は心地悪さを感じます。
場に同じ意見しかない、一色に染まった空間なんて、気持ち悪いのです。
もっと他の見方、もっと別の考え方もあるのでは?
みんながAだ!と言ってるときにBをぶっこんでこられると、私は「おおお」と興奮します。
私も人を挑発するのが大好きです。趣味悪いですね。
ボイスの教え子・パレルモとその作品
この作品、ものすごく面白いの分かりますか?
あなたも見たことのあるいわゆる「絵画」は、フレームで囲まれた四角いキャンバスに描かれています。
ところがこの作品は、フレームが極端に歪み、描くべき真ん中のキャンバス部分がごくわずか。
これは「絵画」と呼ぶべきでしょうか?
いや、キャンバス部分ではなくフレームが作品なのでしょうか?
パレルモはこのように、空間について別の見方を提示するような作品が多く、ここ豊田市美術館での展示内容もとても興味深いです。
『ボイス+パレルモ』展を鑑賞するならここに注意!
1) 2時間以上の余裕を持って行こう
- 豊田市美術館の建物自体が美しい
- 資料を読みながらじっくり鑑賞するのが望ましい
- 映像作品もある
- 『ボイス+パレルモ』以外の、コレクション展も素晴らしい
などから、ぜひ時間に余裕を見て美術館へ行きましょう。
最低2時間、できれば3時間あると良いでしょう。
2) 事前に映画(あるいはその予告編)を見よう
予備知識をもって美術館へ行くと、より楽しめると思います。
以下にオススメ動画を貼っておきます。
こちら↑は映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』の予告編。
公式サイトでは、「先行オンデマンド配信中」のところから全編オンライン視聴が可能です(有料)。
こちら↑は過去に開催されたボイス展に関するテレビ番組。
まとめ
いかがですか。難解に感じますか?
ボイスやパレルモの主張を「理解」するよりも、彼らに刺激されて自分は何を感じ、考えるのか。
それこそ重要ではと思います。
何も知らずに行っても、資料をもらえるので良いですが、上記を読んでから作品に対峙すると、あなたもきっと作品と対話できるでしょう。
全ての人は芸術家である
ボイスはそう言いました。
あなたは芸術家ですか?
講師・ライターのホラノコウスケ(@kosstyle)でした。
自由に生きるヒント
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コウスケの日常
しかも、去年・一昨年と比べてファッション文脈と私の趣味と体型が変わりすぎて、去年の服を着ると違和感が激しい。
ほとんど全部、買い替えだな。